≪中国占術の吉日選び/凶日避け≫擇日(たくじつ)について

 世間には「婚姻届けの提出には一粒万倍日や寅の日を使いたい!」「結婚式なら大安吉日!」「お葬式に友引は避けて!」といった「日選び」の概念が存在します。

 これらは日本でもある程度文化として浸透している日選びの基準になるかと思いますが、日選びというものは日本独自のものではなく、風水(≒家相学)や四柱推命(≒算命学)などと同様に中国で古くから研究されてきたものが日本に入ってその後独自に進化を遂げたものです。

 そして中国占術の世界において、凶日を避けて吉日を選ぶという思想は風水や四柱推命と同様にとても大切な概念として扱われます。

 この記事では、中国占術における日選び「擇日(たくじつ)」がどのようなものかというお話を紹介させて頂けたらと思います。

目次

時間と空間、四柱推命と日選びと風水の関係について

 このサイトでもいくつかの記事で書かせて頂いていることですが、時間というものは空間と類似の概念であると中国占術の世界では考えます。

 具体的に言えば「一日」という時間は、「地球の地軸の傾きと自転による地球と太陽の位置関係」という空間の問題に、「一年」という時間は「地球の地軸の傾きと公転による地球と太陽の位置関係」という空間の問題に置き換えることができるものです。

 ですから地球における時間軸は自転や地軸や公転という物理的、空間的な現象によってもたらされているもので、仮に地軸の角度や自転、公転速度といった物理的な現象が変化するならば時間という概念は大きく変わったものとなるわけです。(あるいは地球以外の天体の生活で地球の時間軸が役に立たないのも同じことかと思います)

 そしてこの日選びという概念において使用するのは六十甲子という中国占術すべてに通じる基礎的な概念に基づく時間の循環です。

 「十干十二支と方位・時間/蔵干」の記事から表を引用しますと、

スクロールできます
上段が十干、下段が十二支。+は陽、マイナスは陰を示します。

 この十干と十二支の組合わせに基づいて時間軸が運行するというものが六十甲子の概念で、2023年は癸卯年で2024年は甲辰年、2025年は乙巳年、2026年は丙午年・・・というように十干と十二支がセットになって循環していくもので、風水においてはこれらの十干と十二支が方位を示す概念でもあるわけです。(日本でも2024年が「辰年」で、「丑寅の方位」が北東を示すことが思い浮かぶのはそういう背景があるということですよ)

 そう考えたときに時間と空間というのは切っても切り離すことのできない概念であって、それらは互いに人の行動に影響を及ぼすものだと中国占術は考えるものです。

 そして時間と空間というもののうち「空間の側面に強く焦点を当てた研究」が風水で、「人が生まれた時間(あるいはそのときの天体の関係)が人の生涯にどのような影響を与えるかの研究」が四柱推命だと自分は理解をしています。

 では、「人が生まれた時間」がその個人の生涯に通じて大きな影響を持ちうるものだとしたら、なぜ「いまこの時という時間」が人間の行動に影響を及ぼさないと考えることができるでしょうか?

 四柱推命というものは色々な人たちに大きく扱われて注目を浴びているように個人的には感じますが、「その日、その時が行動を起こすタイミングとして好ましいか否か」を説く日選びがさほど日本では浸透していないように感じるのは不思議なところです。

 ・・・あるいはこのように書くと、「日本にだって六曜があるじゃないか、高島暦があるじゃないか。一粒万倍日があるじゃないか。年ごとの引っ越しに関する凶方位があるじゃないか」と考える方もいるかもしれません。

六曜・高島暦などの日本式の日選びのこと

 ではまず、六曜とは何かを整理してみます。

 六曜(ろくよう、りくよう)とは、その年ごとに始まりは異なりますが下の表に記した6つの日がその旧暦の月ごとに順番に巡る(その月ごとに一日の始まりが決まっています)もので、大安吉日、凶日としての仏滅などはたくさんの方がご存じでしょう。

先勝友引先負仏滅大安赤口
六曜です。詳しく知りたい方は「日本の暦/吉凶を表す言葉①六曜」をどうぞ。」

 次に高島暦(たかしまれき、たかしまごよみ)についてはもう少し複雑で、上の六曜に加えて、六十甲子十二直二十八宿などの巡りくる時間の流れにおける様々な歯車を組み合わせてその日その日の吉凶を判断するものです。

 なにがしかの中国占術を学んでいる方はここでピンとくるかもしれませんが、六十甲子だけでなく十二直、二十八宿といった概念もまた中国占術にもとからある日選びの理論の一部です。

十二直です。「そうしたものがあるんだな」程度に。詳しく知りたい方はウィキペディア先生
角宿亢宿氐宿房宿心宿尾宿箕宿
斗宿牛宿女宿虚宿危宿室宿壁宿
奎宿婁宿胃宿昴宿畢宿觜宿参宿
井宿鬼宿柳宿星宿張宿翼宿軫宿
二十八宿です。「そうしたものがあるんだな」程度に。詳しく知りたい方はウィキペディア先生へ。

 つまりこの高島暦における吉凶の日選びのルーツは中国占術にあるというわけで、それが7世紀に日本に伝わったものが日本でその後独自に進化を遂げたものだと一般に言われます。(参考HP:日本の暦「暦の渡来と普及」

 そうした中で、たとえば一粒万倍日についてはウィキペディアに以下のような記述があります。

選日は古代中国から続く占術である「萬年曆(または萬年農民暦)」が基になっており、天赦日や受死日等、農民暦と重なる内容が多い。しかし一粒万倍日等は日本に農民暦が入ってきた後に独自に作られた信憑性に乏しい内容であり、農民暦には一粒万倍日は存在しない。

            ーウィキペディア「一粒万倍日」から引用

 ここに挙げた「一粒万倍日」の他、「寅の日」「巳の日」中国占術で現在使用する日選びにおいてこれらの日に該当する吉祥の概念はありません。

 ただし「天赦日(てんしゃじつ、てんしゃにち)」については中国式の日選びにおいても吉祥とされるもののひとつですが、中国式の見方だと天赦日だから万事に吉ということはなくてたとえば祭祀や婚姻、神社への祈願などに好ましい日だとされている日ですよ。

 つまるところ、これらの概念は風水、四柱推命などと同じく中国で国家単位で研究されてきた占術がベースになっていながらも、それが日本に伝わった後に日本独自の民衆信仰の中で変化してきたものだということです。

 いまはSNSやテレビなどのメディアで声高らかに「明日は~だから開運日!」と謳うとても気持ちのいい声が届きがちですが、そんな万事に良い日というものはありませんし、「吉日があるなら凶日もある」ところというのがシンプルな答えです。

 そもそも一粒万倍日が突如ここまで有名になったのもそれらが実際に古くから最高の吉日として扱われていたわけではなくて、テレビメディアや占い好きの著名人があるときから紹介しだしたからですよね。

 ちなみにですが、このような中国占術の研究がもととなって日本で独自発展したものには、九星気学の家相学や算命学も含まれます。

 たとえば「北東鬼門を避けるべし!」という概念は家相学(≒九星気学)で有名なものですが、この鬼門というはそもそも古代中国において生まれた概念ではあるものの、中国の長い研究の歴史の中で鬼門の概念は実用性のないものとして切り捨てられて現在の中国風水においては使用されておりません。

中国伝統占術の日選び「擇日(たくじつ)」と「通書(つうしょ)」について

 では中国式の日選びとはどのようなものでしょうか。

 これらの日選びを含めた中国占術というものは、科挙という「世界一の難関試験」とも言われる超難関試験を突破したスーパーエリートたちが国家組織の中で研究を続けてきたものです。

 つまりいまの日本で言えば東大合格者のうちのさらに上澄みのエリートにあたるような人たちが国家機関たる省庁で研究を続けてきたもので、完全に学問的研究に近いものだとわたしは考えています。

 こうした中国伝統五術の世界における吉日選び、凶日避け、あるいは方位や時間選びといった理論は「擇日(たくじつ。=択日。日選びということです」と呼ばれます。

 そしてこの擇日においてその年ごとの通年の吉凶をまとめた書物が「通書(つうしょ。正式には通書便覧)」と呼ばれるものになります。(正確にはこの通書における擇日は叢辰法(そうしんほう)と呼ばれる種類の技法で行った日選びの結果を記したもので、日本の高島暦もこの叢辰法に近いロジックで日選びをしていると自分は思っています)

 ご参考までにこの通書に関する「女性自身」の2018年の山道帰一先生へのインタビュー記事「トランプと台湾の大富豪も使っている風水の秘書『通書』とは?」で興味深い事実が述べられているので、2,3引用させて頂きます。

 はじめに、トランプ元大統領が風水を使用していることやトランプタワーの建設に風水を使用していたことは「風水とビジネス」の記事で触れたとおりですが、当然ながらそうした中でトランプ大統領は風水師の指導のもと、トランプタワーの落成式なども擇日を使用して行われていたようです。

 つぎに、かつて日本における家電業界最大手の一つであったシャープ社を買収した鴻海についてです。2016年にシャープが台湾の企業『鴻海(ホンハイ)』に買収されてしまったことは記憶に新しいと思います。この調印式の日取りについて・・・

 「両社の取締役会で買収が議決されたのは’16年の3月30日です。でも、調印式が行われたのは4月2日土曜日。鴻海の郭台銘会長が擇日で4日後にずらしたことから、異例の土曜日となったのです」

 引用元:「女性自身/トランプと台湾の大富豪も使っている風水の秘書『通書』とは?」

 鴻海はEMS(電子機器受注生産=販売メーカーから発注を受けて電子機器製品の製造を行う業態のことで、鴻海はiPhoneの製造などを行っています)の分野において2位以下にかなりの大差をつけて独走状態にある業界最大手のメーカーで、風水を経営理念に使用していることでも有名ですが、その鴻海においても経営指針のひとつとして擇日を使用しているということです。

 そして最後に、台湾や香港といった地域が風水思想が民間レベルに浸透した風水先進国であることはいくつかの記事で述べてきましたが、どの程度この擇日という思想が広まっているかについてです。

 (1年365日の吉凶を読み解く『通書便覧』とは?)

 一般的には『通書』と呼ばれています。人々の暮らしにかかわる行動や“げん”をかつぐ事柄の吉凶についてが、一日ごとに詳しく書かれた、生活便利情報と百科知識を記した冊子です。

 台湾だけでも毎年50種類以上が出版され、83%の家庭が『通書』を使っているのです。

引用元:「女性自身/トランプと台湾の大富豪も使っている風水の秘書『通書』とは?」

 数字はもちろん特定の年度の内容であるかとは思いますが、八割という数字の凄まじさには驚くばかりです。仮に半分の世帯普及率四割としてもすさまじい数字です。

 日本でたとえるならば、「カレンダーと同レベルで普及しているもの」というのがわかりやすいのかもしれませんよね。

 ここでわかることは、風水にせよ四柱推命にせよそれだけで完結するものではなくて、日々の生活の中での吉日、吉時選び、あるいは凶日避けといった思想を含めてこそのものだと考えられているということですよね。

 そしてこの通書における擇日(叢辰法そうしんほうの擇日)の世界においてどのように日の吉凶を見るかということについては、「人が取ろうとする行動ごとに、その時間の善し悪しがある」というものです。

 例を挙げたら、神社仏閣の参拝、神棚や仏壇の移動、旅行、仕事の報告、治療のために病院を訪れる、友人に会う、引っ越し、出国、除霊、結婚、エステなどの美容、新婚生活のベッドの配置、工事、建築(建築関係はとても要素が諸々でかなり複雑ですが)、開店、農業における種まき、植林、魚釣り、埋葬・・・など。

 もっと言うなら上で挙げた神社仏閣の参拝という事柄においても、「神社仏閣を参拝するために適した日」があり、「神仏に祈願するために適した日」があり、「子孫繁栄を願うために適した日が」があり・・・といったように、その内容に応じて吉凶の日は異なるものだと考えます。

 ここに挙げた例はほんの一部で、実際には百五十を超える項目に渡って精細に日選びの吉凶を記しているのが通書というわけです。

※ちなみに中国占術という呼び名をしていますが、実際には中国の歴史の中で文化大革命の時期に中国の伝統五術(風水、四柱推命、擇日等々全般です)は悪しきものとして徹底的に排斥されているため、それらの先進地は今は台湾や香港といった地域です。今は再びそれらを見直す動きもあるようですが。

おわりに/擇日の目的は「未来をより良く変えること」

 この記事では中国占術における擇日について説明させて頂きました。

 まずこの擇日は「時間と空間により人は影響を受けるものだ」という風水や四柱推命などの占術と同じルーツを持つものです。

 そして六曜における大安仏滅であれ九星気学の北東鬼門であれ、そうした簡略化された概念があったにも関わらずそうした概念が消えてこのような複雑な理論が残っている背景には、「簡略化された理論にそこまでの実用性が認められなかったからだ」と考えるのが自然なことかと思います。

 シンプルな話、誰でもすぐ理解できる理論が多数の使用者にとって好ましい結果をもたらすのであれば、複雑な理論が何百年、千年以上もの長きにわたって継承される必要はありません。

 また、ここからもう一つ言えることは、「四柱推命」などの占術が個人の意思で変更できない決定論的な意味合いの性質を持っているものであることに対して、この擇日や風水というものは明らかに個人の意思によって行動を変えることを説くものです。

 その根底にあるのは、「決定された人生は存在しない」ということではないかと自分は考えています。仮に四柱推命や紫微斗数、あるいは西洋占星術のようなロジックの中で人間の将来がすべて運命として決定しているのだとすれば擇日や風水というものが発展する理由はありません。

 ですから「擇日や風水とは好ましい時間と空間を意識的に利用することで将来をよりよくしていくための試みなんだろう」というのがわたしの考えです。

 最後に、擇日と通書というものについての山道帰一先生の言葉を引用させて頂きこの記事の終わりとしたいと思います。

擇日と通書について

 人々にとって時間を費やして過ごす人生というものがあっても、

 時間そのものが未来に続いているのだとしても、

 時間と未来にどういった因果関係があるかなどと考えることなど多くの人はしないでしょう。

 しかしながら、人がこの世に生きている期間という時間は確かに存在し、人がこの世に生きていくという時間もまた存在し、人生があるのです。

 生きていくということはそれだけでたくさんの選択肢を突き付けられ、人は選択の間違いによる取り返しのつかない失敗を恐れます。

 その失敗が散々思案した挙句の決定ならばいざ知らず、その失敗が「不運」、つまり時間(タイミング)を間違えたことによる失敗ならばきっと後悔を残すのでしょう。

 私たちが何気なく選択をする際に、そこには選択の数だけ未来があって、未来へと連なる縁起を推し量る起点となるものが存在し、それが時間を選択するということであり、正しい未来への選択のために時間を選ぶ方法が「擇日」であり、そのエッセンスをまとめた指南書が「通書」なのです。

                             山道帰一先生

 それではこの記事はここまでです。

 ここまで読んでいただきありがとうございました。この記事を読んでいただいたあなたが良い未来を創っていただけますようにと願います。

 この擇日における具体的な月破大耗の日や日本語の通書についての紹介は「2024年版月破大耗カレンダーと通書」の記事に、また他にもこうした中国占術を利用している企業や著名人に関する記事や、風水や四柱推命などについても記事を挙げていますのでよかったら他の記事も読んでいただけるとうれしく思います。

 ちなみに「風水とビジネス」の記事に挙げている風水等を利用している企業や著名人は、スティーブンスピルバーグ監督やビルゲイツ氏、ジョディフォスター氏やローリングストーンズ、アリババグループCEO・馬雲(ジャック・マー)氏、あるいはモルガンスタンレー証券やブリティッシュ航空、ペニンシュラホテルやマリーナベイサンズなどですよ。

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